【卒業生座談会】災害医療を経験して~救急×看護の連携が生み出す力~
実施日:2011年11月30日(水)
会場:大阪医専 総合校舎
大阪医専の体験入学が開催された2011年11月30日。
キャンパスには将来医療人を目指す数多くの方々が来校しました。そこには、すでに医療人として活躍する本学の卒業生たちの姿も。未来の後輩たちに、医療職のやりがいを伝えにやってきたのです。
東日本大震災の救助隊として出動した卒業生も来校したため、その貴重な経験や医療現場で培った、お互いの経験・意見をわかち合おうと、救急救命士・看護師として現場で活躍する卒業生と救急救命学科の教官を交えて座談会を実施しました。
出席者
-
大阪府箕面市消防本部 勤務
救急救命士
山口 慶太郎さん
救急救命学科 2007年卒 -
大阪府茨木市消防本部 勤務
救急救命士
北平 壮太さん
救急救命学科 2007年卒 -
済生会吹田病院 勤務
看護師・保健師
鬼木 悠さん
看護保健学科 2009年卒 -
大阪中央病院 勤務
看護師・保健師
水谷内 加須美さん
看護保健学科2009年卒 -
救急救命学科
上久保 敦 教官
救急救命士
みずから被災地への出動を志願した卒業生。
上久保今年は東日本大震災という未曾有の大災害が起きました。我々医療人にとって、もちろん無関心でいられない出来事です。実際、卒業生の中には被災地に出動した人もいます。山口くんもそうですね。
山口はい。緊急援助隊のメンバーとして岩手県の大槌町へ行きました。
上久保被災地に出向いた卒業生たちの話を聞くと、出動命令だけではなく、休暇を取ってボランティアとして駆けつけた人もいました。山口くんの場合は?
山口僕は志願しました。休暇日に震災が起きて、翌日出勤したときに「行きます!」と。

水谷内私は実際には行っていませんが、行きたい気持ちはありました。看護師なら何かできるはずですから。
鬼木私は被災地に行って自分が役に立てるか自信がなかったというのが本音ですね。医療器具が揃っているかなど、被災地の正確な状況が把握できないので。
山口事実、被災地はもう予想を超える惨状でした。阪神・淡路大震災をイメージしていたのですが、まったく違いました。生存者の搬送をすることを考えていたのに、津波に流されて被災者がどこにいるのかすら、わからない。結局、生存者を救出するには至りませんでした。無念です。
上久保阪神・淡路大震災との決定的な違いは津波ですね。倒壊家屋から救出するのとはまるで違い、今回の震災はすでに誰が行っても助けられない状態だった。その意味で阪神・淡路大震災の経験も活かせなかった。女川町に行った卒業生は人命捜索活動に携わったそうだけど、瓦礫の山でどうしようもなかったそうです。
上久保山口さんたちのように被災地に行った人も、僕のように行かなかった人も、今回の震災で意識が変わったことは共通ですね。これを契機に、普段の訓練においても近隣の市町村がもっと連携するべきだと思います。消防・警察・自衛隊の横断チームでは、災害初期時はすぐに集まることができない。こんなときこそ市町村連携が重要です。
救急救命士と看護師、その関係は?
上久保北平くんから「連携」という言葉が出ましたけど、お互い現場ではどのように連携を図っていますか。
北平講習会や勉強会でご一緒する看護師さんは、こちらの職務内容を知ってくださっているので安心感がありますが、看護師さんのなかには「どうしてこんな(緊急性のない)人を搬送してくるの?」という顔をする方もいたりします。でも、搬送せざるを得ないわけですから、やはりお互いの仕事を知ることが第一歩だと思います。
山口僕もそう思います。僕らは搬送して終わりではなく、その後の患者さんのことをすごく気にしているわけです。以前遠方の病院に搬送したとき、看護師さんに大阪医専の卒業生がいて「ここなら安心」と言われてほっとしたことがありました。
水谷内救急救命士の方がそういう意識を持っていただけるのはいいですね。私たち看護師は患者さんの情報が可能な限りほしい。事務的なことだけを告げて立ち去る救急救命士もいるので…。
鬼木看護師の目線で言えば、とくに家族の状況などを伝えてほしいですね。私は小児科の勤務で、子供は自分では話せませんから、とくにそうです。
山口小児に限っては絶対搬送時に家族を引っ張っていきます。「この子のために来ていただかないと困ります」と。
北平掘り下げて問いたださないと本当のことを教えてくれない患者さんや家族もいる。その点は常に意識しています。
上久保情報をうまく引き出すテクニックはある?
山口混乱されている場合は、落ち着いていただくようにします。「3日前はどうでしたか?」と時間軸で誘導してあげれば相手も整理しやすくなる。それと言葉づかい。まずは敬語で入ります。
上久保その心がけは大切。それと、いきなり「おばあちゃん」なんて呼んじゃダメ。僕は経験あるけど、そう呼びかけてムッとされたことがあります。てっきりおばあちゃんと思っていた人が実はお母さんだったりすることもありますからね。こういったことは気をつけないとダメですね。
鬼木それ、ありますね。私はその場合、若いほうを選択します。おばあちゃんかお母さんかわからない人は、「お母さん」と呼ぶ。相手の方に失礼にならないようには、常に気を使っています。
北平ともかく僕らの仕事は、揉めたら負けですよね。

山口その通り。鬼木さんの小児科で言えば、子供のことを全然把握していない親も中にはいます。内心は腹立たしいけどそこは抑えて。もし搬送を断られでもしたら、患者さんである子供の不利益になってしまいますから。
水谷内私は患者さんに共感したり寄り添ったりする姿勢を大切にしています。相手が笑顔のときはこちらも笑顔で接する。沈んでおられるときはそれなりに。看護師だから常に笑顔というのではなく、笑顔が相手の気分を害することもあるのです。
鬼木小児科で子供と関わっていく上で、まずお母さんから情報を取りたい。でも夜なら疲れているし、家に残してきた子供も心配だとか、お母さんもそれぞれ何かと大変で、いきなり質問攻めにはできません。そんなとき「夜中でお休みだったのに大変でしたね」などと、相手を思いやる言葉をかけると話がスムーズに進み出すことがあります。
上久保声掛けはとても大切。普段の医療現場でも災害現場でも、そこは同じです。救出や処置はもちろん重要ですが、それ以前に、その人をどれだけ安心させられるか。安らぎを与えられるような声掛けができるか。つまり「言葉の医療」です。教科書には出てこないことだけど、学生にはよく話しています。
水谷内患者さんに「あなたと話しているうちに気持ちが楽になってきたよ」と言っていただいたことがあります。看護師になって良かったと思う瞬間の一つですね。
上久保患者さんとのコミュニケーションというのは、皆さんにとっても勉強になるはず。
水谷内患者さんは私たちの言葉を本当によく覚えているものなんです。「あのとき、?と言ってくれたしね」などと、お会いした当初の声掛けが後々活きてくることがあります。とくに入院してこられたときの看護師や病院スタッフの第一印象はすごく残っている。気をつけなければいけないと日々肝に銘じています。
他職種との連携「チーム医療」が、不可欠な医療現場。
上久保今日の話を通じて、救急と看護の情報共有・連携の大切さを改めて確認できたように思います。学生時代を振り返って、「チーム医療」を学んだことが活かされていますか?
鬼木私は知識面でも活きていますが、他学科との人間的なつながりが活きていると実感しています。今でも他学科の卒業生に質問や相談できるのは大阪医専で学んだ財産です。小児科には全科があるので、装具をつけて退院するお子さんがいる場合は理学療法士との打ち合せが必要ですし、育児能力に問題があるお母さんがいたらワーカーさんの意見を聞くといった具合に、色々な職種との連携が欠かせません。
水谷内病院では他の職種と関わらないと、本当に何も進みません。
山口僕らもそうです。救急救命士が関わる職種は医師や看護師だけではありません。たとえば消防の救急講習では保健師さんと一緒に仕事をしたりします。
北平学生時代を振り返ると、僕は反省のほうが…。在学中に卒業後の仕事内容をもっとイメージできていれば、もう少し踏み込んでチーム医療の勉強に取り組むことができただろうと思います。
山口チーム医療とは少し違いますが、身体の鍛え方をアスレティックトレーナー学科の先生に聞きに行っていました。鬼木さんが言うように、同一分野だけでなく、他分野の学科もたくさんある大阪医専ならではのメリットですね。
時代とともに進化を続ける本学のカリキュラム。
上久保ちなみに、「チーム医療」の授業はどんどん進化しているよ。今は各学科を横断して編成されたチームに一つの症例を与えて調査・分析・プレゼンテーションさせる形式です。救急救命士で言うと、搬送した後は知りませんでは絶対済まない学びになっています。
山口それやりたい! 今、勉強したい。ところで先生、今度学校で訓練させてもらってもいいですか?大阪医専なら最新のシミュレーション機器などがあるでしょうから。
上久保どうぞ使ってください。さっき北平くんが言ったように、現場に出たらイメージが浮かんでチーム医療の重要さを身を持って理解できるようになりますよね。そういった意味で卒業後の再教育も学校の責務なんだと思います。だから本学では学科ごとに卒後研修会を実施しているし、将来的には学会やシンポジウムの開催も考えていきたいですね。
北平今日は体験入学の日で、未来の後輩になるかもしれない方たちが来校しています。大阪医専に入ったら、目先の勉強だけではなく、常に卒業後の現場をイメージしながら他職種にも関心を持って学んでほしいと思います。
水谷内そうですね。臨床現場に出ると、もっとチーム医療について勉強しておくんだったと、本当に実感しますから(笑)。
上久保さっきも言ったように卒後教育は、今後いっそう充実させていくつもりです。卒業生の皆さんとは、これからもずっとつながりを持ち続けたいと思います。今日は来てくれて感謝しています。
山口ところで鬼木さんの勤務先をさっき知ったのですが、その病院には救急搬送や研修で行っているんですよね。
鬼木まだ病院ではお会いしてなかったですね。またお世話になります。
山口ここでもつながりましたね(笑)。