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実習での出会いを通じて、必ず言語聴覚士になる、と決意した。

リハビリ分野

【特集】やる気になった瞬間

卒業生たちの「やる気」に迫る!
今回は公益社団法人 地域医療振興協会 東京北医療センターで言語聴覚士として夢を実現させた卒業生、古川あゆみさんにインタビューを行いました。

―言語聴覚士を目指したきっかけを教えてください―

もともと臨床心理士を目指して、大学で心理学を学んでいました。次第にもう少し生活に根ざした仕事に関心をもつようになり、そのとき知ったのが言語聴覚士の存在でした。でも、もう一度大学に入るのは時間的にも経済的にも大変です。首都医校は大卒者なら2年間で受験資格が得られますので、それが入学の決め手となりました。ところが、こちらも大変(笑)。多忙な毎日で、テスト、課題、提出物など、日々ハードスケジュールに追われていました。でもその積み重ねが力になりました。こちらが一生懸命に取り組むと、先生は必ず応えてくれました。素晴らしいクラスメートにも恵まれ、今となっては首都医校で学んで本当によかったと思っています。

―学生時代の「やる気」体験を教えてください―

言語聴覚学科では実践から学ぶ授業が多く、実際の失語症の方と面談させていただく授業がありました。まだ失語症の知識が少しついた程度で技術なんて全然ない頃です。何とかお話ししようと必死でした。不安だったのですが、最後に「あなたと話せてよかったよ」と力を振り絞って伝えてくださったのです。自分の気持ちが通じた!それがとてもうれしく、このとき、どんなに大変でも必ず言語聴覚士になると決意しました。

学外での臨床実習でも似た体験をしました。失語症最重度の患者さんでした。社会的地位の高い方で、現状を受け止められなかったようです。当初は拒否反応がありましたが、患者さんの好きな本や写真などを使ってコミュニケーションを図るよう努めていると、少しずつ心を開いてくださるようになりました。最終日、ベッドサイドに挨拶にいくと、涙目で私の手を握られたのです。私は「絶対いい言語聴覚士になります」と強く手を握り返しました。

こういう方々に支えられて今の私があるんだと感謝しています。このときの気持ちはずっと残っていますし、仕事で大変なことがあったときなどに、いつも思い出すようにしています。

―職場ではどんなときに「やる気」がわいてきますか―

患者さんがよくなっていく姿を見ることが一番のモチベーションです。最近担当させていただいた嚥下(えんげ)の患者さんの例をあげると、訓練を通じて常食を摂れるまでに回復されました。食べられないことは患者さん本人はもとより、ご家族にとっても苦痛ですから、それを思うと本当にうれしいです。

退院や転院の際「先生に会えてよかった」と言っていただけたこともありました。でも、こちらが何かして差し上げたというより、患者さんからは教わってばかりというのが私の実感です。いつも私に「やる気」を与えてくださるのは、患者さんなのです。

―今後、どんな言語聴覚士になっていきたいですか―

今、特に意識しているのは患者さんひとり一人をみるということです。以前上司から、この病名だからこの訓練という教科書に沿った対応をしている点を指摘されました。同じ病気でもそこに至った背景は個々に異なるし、表面化する症状も違います。そうしたひとり一人の病気に向き合い、訓練方法をカスタマイズしていくことが私たち言語聴覚士に求められるのだと思います。

言語聴覚士は最近、嚥下のニーズが高まっていますが、実際には高次脳機能障害、聴覚障害など幅広い分野で活動する職種です。一つの領域に詳しくなることも魅力的な道ですが、私はオールマイティーに活動できる方向を目指しています。そういう職能をもつ言語聴覚士は、まだまだ少ないからです。

そして、機能的な回復のサポートだけではなく、患者さんに共感し、気持ちを分かち合う姿勢も欠かさないようにします。今まで普通にできたことができなくなっているのが患者さんです。その辛さを理解し、メンタルケアも大切にできる言語聴覚士でありたいと思います。

※卒業生会報誌「i(アイ)」17号(2014年発刊)掲載記事