建築業界から医療の現場への転身。知識や技術だけじゃない優しさの生かし方も母校で学びました。
田淵 成臣さん
大阪回生病院勤務
作業療法士
作業療法学科(現高度作業療法学科) 2013年卒業
欠点と言われた「優しさ」を
発揮できる天職へ
――学び直したきっかけを教えてください
実家が工務店だったこともあり、大学卒業後は建設業界で働いていました。憧れていた世界でしたが、いざ入ってみると、長引く不況の影響で工賃や資材価格の削減を優先しなくてはならず。そんな現実に納得できないと上司に訴えました。すると返ってきたのは「君は優しいね。長所だと思う。でも、ビジネスマンとしては三流だよ」という言葉。ショックでしたが、いっそのこと「優しさ」を発揮できる仕事に就こうと思い至りました。
――業務の中で、大切にしていることはありますか?
急性期治療後の患者さんが多い病棟で働いています。リハビリは、脳梗塞や骨折などの手術後にゴールを患者さんと共有して始めます。ただ、スタート時のご本人は、心身ともにかなり弱っている状態。こちらも辛いのですが、治療のためには踏み込んで促すことも必要です。そうしたアプローチのさじ加減は、難しいですね。母校のチーム医療教育を思い出しますが、職場では多職種連携を密に進めています。以前、理学療法士の後輩から相談を受けたことがあります。ある高齢女性の患者さんが、認知症も始まっているせいか、リハビリを頑なに拒否されているとのことでした。ただ、身体を動かさないと、どんどん悪くなってしまう。そこでご本人が過去に小料理屋を営んでいた経歴に目を付け、最初は、色々なメニューが載っている料理本をめくりながら話してみることから始めることにました。すると、だんだんと笑顔になる機会が増えていって、やがてご本人がリハビリを前向きに取り組み、車いすで中庭に外出するまでになりました。
――「優しさ」を生かせていますね
実は、「優しさの本質」を理解したのは、母校の先生の言葉でした。クラス委員長を務めていた私は、自分でやった方が早いからと仕事を誰にも任せず抱え込んでいました。周りからも頼られていて。そんな折、ある先生から言われたんです。「任せるのも能力、人を伸ばすのも能力だよ」と。真の愛ある優しさとは、相手を信じて委ね、成長を支えることだと気づかされました。リハビリも同じです。患者さんが自分で体を動かして効果が出るわけで、私が代わりにやることではないですよね。大事なのは、そのために何をすれば良いのかを考え、働きかけること。医療人としての意識も変えてくれた一言でした。所属する大阪府作業療法士会では、ブロック長を務めています。自ら立案するイベントに加えて、若い人のアイディアを形にするための仕事も増えてきました。現在、老若男女を問わず色々な場面でケアの必要性は高まっています。勤務先で患者さんと向き合うことはもちろんのこと、作業療法士としての知識や経験を生かし、地域に根ざした活動も続けていきたいですね。
Profile
大阪回生病院勤務
作業療法士
作業療法学科(現高度作業療法学科) 2013年卒業
大学卒業後は大手ハウスメーカーで勤務。その後、大阪医専で学び直し大阪回生病院に作業療法士として入職。勤務先での活躍のほか、作業療法士として様々な活動に従事。現在、大阪府作業療法士会 大阪市北ブロック長として地域福祉への貢献にも務めている。