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【校費留学生×校長座談会】校費留学で、学びの場を世界に広げる学生たち。「人生が変わったと自信をもって言い切れる」。

救急・臨床工学分野

本学では、アメリカやヨーロッパなど、医療・福祉・スポーツの先進国の専門学校や大学へ留学できる『校費留学制度』を設けています。必要な渡航費や入学金・学費(1年間分)を本学が支援し、毎年、卒業年度生から希望者を募ります。

この『校費留学制度』では、技術・思想の違いに触れるとともに、異文化での研究活動に接することで、既成の発想の枠を超えたエキスパートの育成を目的としています。

今回は、校費留学経験者、留学予定者と大阪医専の濵岡校長の3者が集い、留学の意義について語り合いました。

参加メンバー

校費留学制度があったから、描けた未来像。

濵岡今日は校費留学中から一時帰国した髙田さんと、これから校費留学に出かける島田さんにお越しいただきました。
若いうちに海外で見聞を広めるというのは実に意義深いことですが、現実問題として実際に留学できる人はそう多くありません。やはり本学には『校費留学制度』というシステムがあるから留学を決断できたのはないでしょうか。

髙田間違いなくそうです。でも実は、親は留学に猛反対だったんです。

濵岡早く就職しなさいと?

髙田はい。でもどうしても行きたくて、校費留学生を獲得するという条件で許してもらいました。僕にはプランがありまして、校費留学は1年間ですが、そのまま留学を継続してパラメディック(Paramedic)の資格、つまり日本の救急救命士にあたる資格を取り、現地で就職することを目指しています。
留学先はアメリカ・ポートランド州のポートランドコミュニティ・カレッジ(Portland Community College)です。校費留学の制度があったからこそ、描けたプランです。

島田私はオーストラリアのメルボルンランゲージセンター(Melbourne Language Centre)に留学して、看護学を英語で学ぶクラスに入る予定です。髙田さんのように明確なゴールがあるわけではないのですが、こんなチャンスはありませんので、しっかり勉強してきたいと思っています。

濵岡それでいい。まず動き出すことから始まりますからね。

島田英語の不安があるんですけど(笑)。

濵岡大変なのは最初だけ。すぐに耳が慣れてくるはずです。大事なのは楽しむこと。苦痛にならない方法で勉強してほしいですね。

島田私が英語で医療を学ぶことに興味を持ったきっかけは、濵岡校長の授業なんです。

濵岡どうして?

島田授業中に結構、英語が出てきましたから。

濵岡僕は学術用語を英語で覚えていますので、日本語のほうが出てこない(笑)。

島田授業で聞いたことを調べるようになると、医学は英語ベースの学問だとわかってきました。そして、私なりに世界が広がったんです。実際にカルテは英語ですからね。

濵岡医学は日本語のほうが却って難しいんです。臓器の名称にしても、英語は日常語と学術用語の乖離が少ないから、慣れると英語のほうが勉強しやすいんです。

髙田それは僕も感じます。それと、現地では日本で勉強してきたことがとても役立ちます。これまでに現地で解剖学や心理学、ドキュメンテーション(文書作成)、レスキューの専門科目など、いろんな科目を英語で履修してきましたけど、在学時に学んだ基礎知識が非常に活きているのです。

日本のよさも問題点もよく見える。

濵岡今日の対談でもう一人話題にしたい校費留学生がいます。
彼は今、アメリカの大学院進学を目指して、カンザスシティの大学で英語学習に励んでいます。花熊さんといって、アスレティックトレーナー学科の卒業生(2014年卒)です。最近レポートを寄せてくれて、髙田さんと同じことを書いています。大阪医専で専門的に学んだ分野については、授業はそう難しくないと。

髙田英語力では現地の学生に負けますけど、基礎知識の面では劣らないと思います。

濵岡花熊さんはこうも書いています。アメリカの大学はすべてが自己責任。日本の大学・専門学校は至れり尽くせりだけど、アメリカでは自分から動かないと誰も助けてくれません、と。

髙田その通りです。アメリカではヘルプがほしい場合は自分から頼みにいかないと前に進みません。

濵岡「At your own risk.」冷たいようだけど、ようは大人扱いなんです。慣れたらそのほうが心地いい。日本の学校は手取り足取りやり過ぎかなと感じます。

島田教育機関にしてもそうですけど、日本は本当に恵まれていると思います。健康保険証1枚でいつでも医療が受けられる国です。私もかつてはそれが普通だと考えていましたけど、世界の現状はそうじゃありません。医療どころか、世界には今日の食べ物にも困っている人たちがいる。
私が今回、校費留学に参加する動機は、何もないことが当たり前の人たちに対して、自分ができることはないだろうかと考えたことなんです。だから帰国後、看護師として再度就職するときは国際看護の活動にも携われる施設に行きたいと思っています。

髙田日本がいかに恵まれているか。それは外へ出ると本当によくわかりますし、同時に日本の問題点も見えてきます。アメリカを知ること以上に、日本を見つめなおすことができるのも留学の利点です。

濵岡島田さんは卒業後に校費留学を申請したようですけど、何かきっけかがあったのかな。

島田在学中から関心はありました。でも私は社会人入学で、主人も子供もいるなかで勉強させてもらっているという状況でしたから、当時はそれ以上のことを考える余裕がありませんでした。
就職して経験を積んだ今ならひとつ上を目指せる、と思って挑戦することにしました。
感謝しているのは、私が校費留学に関心を持っていたことを先生が覚えてくださっていて、タイミングよく「まだ募集枠がある。諦めていないのならどう?」と電話をいただいたのです。

濵岡うちの先生方は、学生ひとり1人をよく見ていますからね。留学期間中、ご主人とお子さんをオーストラリアに招いたらどうですか。勉強している姿を見せてあげればいい。

島田できればそうしたいですね。こんなお母さん、滅多にいませんから(笑)。

これまでの常識がくつがえる体験

濵岡髙田さんは、実際に留学を経験してみて、その成果をどう感じていますか。

髙田成果は山のようにあります。この留学で、人生が180度変わったと自信をもって言い切れます。医療の知識ということだけではなく、むしろ人間的な成長のほうが大きいと思います。多様な常識、価値観に触れたことで考え方が広がりますし、それは選択肢や可能性が広がるということにつながります。

島田いい話を聞きましたね。就職したからこそわかることなんですけど、注射でも点滴でも技術はだれでも覚えます。しかし看護師は病気より人間をみる仕事。相手を理解するには、自分の経験値やバックグラウンドが豊かでなければなりません。
留学でいろんな経験をして、人間性を高めたいと思っています。

濵岡日本という枠だけ捉えていると、見えないものがたくさんあるしね。

髙田そうなんです。僕がずっと持っていた常識とは、日本という環境でつくられたもの。違う価値観に触れることで、それが常識でも何でもなかったことに気づかされます。考え方は無数にある。本当に視野が広がりました。

島田一方でいろんな価値観に触れるなかでも、自分という軸を持っていないと流されてしまうことにもなり兼ねませんね。

髙田まさにそうです。多種多様な考えからどれを選ぶかは自分次第。だから自分というものを持っていなければ、結局は何もできません。

島田私は一人の人間として、常に謙虚でありたいと思っています。それは外国に行っても大事にしたいですね。海外ではアピール不足ということになるかもしれませんけど。

濵岡たしかに自己主張の点では文化差を感じるでしょうね。僕が大阪大学の教授だった頃、利害がからむ国際会議などで非常にタフな交渉もしました。でも皆さんの場合そこまでは必要ないし、今は状況も変わって決死の覚悟で海外に行く時代ではありませんから、肩の力を抜いて楽しめばいいと思います。仰角(ぎょうかく)15度くらいがちょうどいい。あまり上を見ると地に足がつきませんから、15度ほど上を見て頑張ってほしいですね。

髙田留学中、ぜひ避けていただきたいのは孤独になること。自分からクラスメートに働きかけるとか、留学生を孤立させないための施設をもっている学校もあるし、そうしたしくみもうまく活用して、コミュニケーションを図っていけばいいと思います。

濵岡本学ではアクティブ・ラーニングを重視していますけど、校費留学もその一環と言えます。自ら問題を発見し、解決していく。留学はその絶好の機会。若いときにこの経験ができるのは、大変な強みになります。

島田私はあんまり若くないですけど(笑)。

濵岡いやいや、人間は50歳まで伸び続けます。大脳生理学的にもそうだし、これは保証するよ。一番だめなのは自分で限界を決めてしまうことね。

髙田その限界をとてつもなく広げてくれるのが留学ですね。

濵岡日本は世界に冠たる健康保険制度や医療保険制度を築きあげ、長寿国になったのですが、逆に言えば健康寿命を長くするためにリハビリテーションの需要を生んだわけです。
それはコ・メディカルがしっかりしないと医療が立ち行かない時代になったことを意味します。しかし、まだまだその意識が遅れています。髙田さんも島田さんも、そして留学中の花熊さんも、留学経験のあるコ・メディカルの先駆けになって活躍してくれるものと期待しています。自分の目で世界を見た人間ならではの視野と発想で、声をあげていってほしい、周囲に発信していってほしいと願っています。

髙田僕はアメリカで実務経験を積んで、いずれは帰国して日本の救急医療の発展に貢献したいと思っています。あまり前例のないモデルかもしれませんが、後輩たちに対して、こんな道も開けるということを示せれば、母校への恩返しにもなるはずです。

濵岡やりたいこと、面白いと思うことはどんどんすればいい。地に足をつけた状態で上を見て前進すれば、必ず門戸は開く。世の中そうなっているんです。