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【教官座談会】卒業生と医療人、2つの視点を持つ教官たち

救急・臨床工学分野

本学には卒業後、臨床経験を積んだ後に、再び母校に戻って教壇に立つ教官が多くいます。

卒業生と医療人という2つの視点を持つ教官に教わる学生のメリットは何か。卒業生の教官たちが座談会で語り合いました。

参加メンバー

学生がつまずくポイントがわかる

澤井今日集まっていただいた教官の皆さんには共通点があります。全員が本学の卒業生です。本学では卒業生が教官として戻るケースが結構多いです。そこで今回の座談会では、我々卒業生の教官が、学生との関わりにおいて、どんな役割を果たし得るのかといった話題で進めていきたいと思います。

平山私が教官として戻ってきたときには、すでに多くの卒業生が教官を務めて、指導のポイントなど相談しやすかったです。

平林私が教官としてお誘いいただいたときは実務経験5年の段階で、まだ早い気もしたのですが、もともと教官の仕事に興味があったので今がチャンスだと思って戻ってきました。

古川私が教えるということの楽しさに目覚めたのは在学中です。3年生が2年生を教える授業があり、それが面白かった。

藤井臨床現場にいたとき学生の実習指導をさせてもらっていて、それは楽しい仕事の一つでした。それを深めていきたいと思ったのが教官になった動機です。

澤井藤井先生は1期生ですね。私と和田先生も同じです。開校当時とは随分と変わりましたね。

和田環境は格段によくなっています。

澤井当時は今のような「国家試験 対策講座」などなく、自力で勉強するという状況でしたからね(笑)。

和田学校から何かを与えられるというよりは、学生も一緒に学校をつくっていく時期でした。

高倉我々の頃は環境がなかったから、それを自分たちでどうにかしようという意識で動いていました。そういった意味では、設備や制度環境が整っている今の学生は恵まれているのかもしれませんね。

平林当時を経験したからこそ、自分が学生だった頃にあれば良かったなと感じることを今の学生にしてあげたいと思っています。

高倉そうですね。言語聴覚学科はジャンルが幅広く科目数も多い。私の場合は必死に勉強して何とか卒業したというのが実情でした。でも現場に出ると、もっと勉強しておけばよかったと振り返ることがいっぱい出てきます。それは身を持って感じました。だから学生には単位さえ取ればいいという姿勢で学ばないように、今これを勉強する意味をわかってもらうようにしています。

藤井この勉強が将来何につながるのか、学生にはわからない部分がありますから、その意義を伝えることは私も大事にしています。

平山昔は基礎医学分野の先生が非常勤で、その授業の間しか学校にいませんでした。先生との接点が少なかったこともあって、わからない部分をつい流してしまい、テスト前になって必死に暗記していました。今は基礎医学分野の先生も常勤なので、いつでも質問できます。学生にはこの恵まれた環境を生かして、運動学、解剖学、生理学といった重要科目は今のうちにしっかり勉強しておくように強調しています。テストのための勉強になってはいけない。基礎は学生の間にやっておかないと、就職してから苦労することになりますから。

藤井就職してまず実感したのは自分の知識の少なさ。在学中も看護はすべての領域を勉強しますが、卒業後はさらにそれぞれの場で専門知識が必要になります。ですから就職後、自分で深めていくことが必要なんです。勉強の方法を学生のうちに身につけることが大切になってきます。

平山単純に比較できないかも知れませんが、私の学生時代の臨床実習は、今以上の厳しさがあったかもしれません。実際私なんか泣きながらやっていましたよ。そういう自らの体験談を通じて、私も頑張れたし必ずやり遂げられるよ、ということは伝えるようにしています。

古川自分の学生時代の体験を、今の学生に還元できる要素はたくさんあると思います。卒業生という立場で教官になると、学生がつまずくポイントがわかります。カリキュラム自体は私が学生の頃と大きくは変わりませんから、自分の実感として理解できます。

澤井学生は体験談を聞きたがりますからね。

高倉授業では臨床経験を交えて、できるだけ体験談を話すようにしています。そこで失敗体験を話すと生々しさが伝わるようで、結構聞いてくれるんです。

澤井教官の失敗談は学生も興味あるでしょう。

和田失敗談も有効かも知れませんが、逆の視点もあります。学生は仕事の楽しさを知らないのです。まだ現場に出ていませんから。対人援助職は我慢を要する仕事だとか、悲観的な側面に目を向けてしまう学生もいます。そうじゃなくて、現場に出たら想像以上に楽しいこと、やりがいがたくさんある。その楽しさに到達するためにするべきことを提示するという方法もあるのではないでしょうか。現場に出て初めて気づく喜びは多いと思います。

進化している「チーム医療」教育

澤井我々、卒業生から見て教育環境は非常に進化しているわけですが、その象徴的なものが現在毎年実施している「チーム医療症例演習」と言えるでしょう。2年次の最後に、学科横断のチームを組んで一つの症例について研究する2週間の教育プログラムです。

平山私のときは、まだ演習という形では実施されていませんでしたが、いざ現場に出ると、「チーム医療」教育の重要性を痛感しました。

平林私の年次には始まっていましたけど、今よりもずっと簡素でした。

高倉私のときは今ほどの規模でないにせよ始まっていました。学科をシャッフルしてチームをつくったのですが、他学科との混成チームにいると学科を背負っている気持ちになる。手を抜いちゃいけないと思って頑張りましたね。そのとき実感できた成果は、他学科の知り合いが増えたこともあります。

澤井それも非常に大事なことですね。

和田そうですね。誰に何を聞けばいいのか。例えば目のことなら視能訓練士の先生に尋ねてみようという発想ができますよね。現場に出ると、その引き出しを持っているだけでメリットになります。

平山気持ちのハードルも下がるのではないでしょうか。現場に出てあの看護師さん怖いなあと思っていても(笑)、学生時代に看護師の卵と一緒に勉強した経験があるという記憶だけで遠い存在ではなくなります。

高倉「チーム医療」の授業は他職種のことも勉強する狙いがあるのですが、実は自身の職種について深める機会にもなります。自分の職種について掘り下げることなしに、周りに伝えられないわけですから。

平林その通りです。相手を知るためには、自分のことをきちんと伝えられることが最初なんです。自分の職種に対する愛着も大切です。この演習ではそれも育っていて、自分はこの職種、うちの学科で言えば作業療法士を目指しているんだというプライドや責任感が出てくる。他学科の学生との交流することで、自分自身の学業や価値観が相対化される効果があります。学科の世界に閉じこもっていては身につかない視点です。実際、学生は急にやる気を出したり、真面目になったりします。

和田現場では色々な職種の人が連携するわけですから相互理解が絶対に必要です。共通言語も持たなければならない。「チーム医療症例演習」はその第一歩として、他学科のことを知る。そして、症例を関連性のある学科の学生と一緒に勉強していく。導入としては非常に意義がある学習です。

自分の後輩を育てるという意識

澤井学生との関わりにおいて、卒業生だからやりやすい点もあると思います。その辺いかがですか。

古川私が卒業生だとわかると、学生のほうから学校の先輩という感覚で接してくれることがあります。「先生のときはどうでした?」という質問が出るなどコミュニケーションが図りやすいこともありますね。それと私自身の意識も違います。ホームルームでも言うんです。他校で教えているのとは意味が違う。私は自分の後輩を育てている、と。

澤井単に教官と学生ではなく、先輩、後輩の関係もあるわけですね。当時の教官が残られているのも心強いのではないですか。

古川臨床工学学科の場合、当時の先生方がまだ多く、だからこそ他の先生方の授業スタイルを覚えています。それを踏まえて、自分は他の先生を補うような授業を心がけています。教官になると他の先生の授業を見る機会がないですから、これも卒業生の利点だと言えます。

高倉自分自身が学生だったときの目線、教官の目線、そして臨床家としての目線。 こうした多様な視点から助言してあげられるのが、学生にとっては響きやすい部分なのかなと思います。自分が学生のときの授業を思い出して、それが実際に臨床でどう生きたか。経験として語れるので、そこは今後も大事にしていきたいですね。

藤井学生の視点で見ると、同じ学校で同じ実習を経験してきた人間だという意識もあるかと思います。その点では近い存在と捉えてくれているでしょうし、私自身そうありたいと思っています。

平山私が学生の頃は、どちらかと言えば先生は近づき難い存在で……。

澤井そうでしたね、昔は。もう、怖いのなんの(笑)。

平山今はフランクに接してくれる学生もいて、近い存在と感じてくれていることはすごくありがたい。でも反面、厳しさが足りなかったり、間違いを指摘しにくくなったりする怖さもあります。学生との適切な距離感。これは教官になってからずっと課題と感じていることです。

平林実はこんなことをしてみました。私が卒業生だと知らせたクラスと、いずれ明るみになるにしても、あえてそのことを伏せたクラスにわけたんです。その結果わかったのは、卒業生という立場は活用の仕方次第ということです。どんなタイミングで何を伝えるのか。ただ卒業生だから接しやすいというわけではなく、その立場をどう生かすか、工夫が大切だと感じました。

澤井卒業生の教官だからこそ、試行錯誤することもあります。それでも現場で活躍できる人材(後輩)を一人でも多く輩出したいという思いは皆共通です。これからも卒業生という立場も意識しつつ、我々も教官として成長していきましょう。